悪天を前にした、ある夏の撤退記

公開日:

カテゴリー: おじ登山


 

お休み前のブログで 北アルプスを登山することをお話しておりました

本日はその時のことを お話したいと思います

コースは北アルプスの裏銀座といわれるコースです

 

出発前から、どうも2日目の天気が怪しかった。
早く歩き出せばなんとかなる、というレベルではない。天気図を見ても、雨量の数字を見ても、「これは厳しいかもしれないな」と、正直なところ不安だった。

これまでの私なら、ここまでの予報が出ていなくても、もっと手前で計画を引っ込めていただろう。けれど今回は違った。
「多少のリスクを取らなければ、成長はない」
そんな気持ちが、背中を押してくれた。

登山バスに揺られ、七倉山荘前に到着すると、山荘の方がぽつりと教えてくれた。
「今日明日は暴風雨になるし冬型気圧配置になり低体温症に気を付けて。泊まってた人たちも、取りやめている」
その言葉が、頭の片隅に残る。

私はまだ迷っていた。
判断は6時過ぎの最新の天気予報を見てからにしよう、と。
乗合タクシーに乗り込み、登山口へ。気持ちの整理はまだついていなかった。

日本三大急登の一つブナ立尾根。長く急な登りだが、12カ所の「目安点」があり、そのうち6番では携帯の電波が届くことがあるという。スターリンクが本気で欲しくなるような環境だが、今回は静かにその目安点を目指す。

 

濡れた木の根に注意しながら、慎重に登る。やがて6番のあたりに差しかかり、スマホを取り出す。かろうじて電波がつながった。

表示された天気は、18ミリから21ミリの雨に増えていた。
(当日の朝の予報では最大雨量25ミリに増えていました)
「雨の時間が早まってくれていれば……」という淡い期待も、見事に打ち砕かれた。

これでは明日水晶小屋まではたどり着けない。もし野口五郎小屋に泊まる形に切り替えたとしても、翌日の行程が完全に崩れてしまう。
ここで無理をして、見知らぬルートをヘッデン(ヘッドランプ)頼りで進む?
しかもこの風、この雨量を含んだ登山道を?

……やっぱり、違う。

何度も何度も、自分の中で問答を繰り返して、ようやく決断した。
「下山しよう」と。

今回の裏銀座は、実は3度目の挑戦だった。過去2回は、何らかの事情で登山口にさえ来ていない。そして今回こそは、と準備に準備を重ね、山小屋の予約も万全だった。

正直、後ろ髪を引かれるどころの話ではなかった。
でも、引き返す足取りに、迷いはなかった。

下山途中、ちょうど下りてきたご夫婦とすれ違った。
「昨日は風がひどくて、飛ばされて怪我した人もいたみたいですよ」
小さい私も飛んでたかもと思う。

「撤退に慣れてる」と言えば聞こえはいい、私は結構これまで撤退を早めに決めている、バイアスがかからないようにするためでもあるが、やはり残念なものは残念だ。
ただ、今回も無理をしなかった。後悔ではなく、安堵の気持ちがほんのりと残った撤退だった。

帰り道、ふと思った。
「一日おいては双六から登のもアリかもしれないな」
でも、今回は車でもなかったし、それも難しい。そう簡単にはいかない。

三度目がダメだったなら、次は四度目だ。
山は逃げない。また、きっと挑戦すればいい。

 

紀行文的に仕上げてみました

最後までお付き合いくださいまして

ありがとうございました